」
三
「嬢ちゃん坊ちゃん。」
と先生はちょっと口の裡《うち》で繰返したが、直ぐにその意味《こころ》を知って頷《うなず》いた。今年|九歳《ここのつ》になる、校内第一の綺麗《きれい》な少年、宮浜浪吉といって、名まで優しい。色の白い、髪の美しいので、源助はじめ、嬢ちゃん坊ちゃん、と呼ぶのであろう?……
「しょんぼりしている。小使溜《こづかいだまり》に。」
「時ならぬ時分に、部屋へぼんやりと入って来て、お腹が痛むのかと言うて聞いたでござりますが、雑所先生が小使溜へ行っているように仰有《おっしゃ》ったとばかりで、悄《しお》れ返っておりまする。はてな、他《ほか》のものなら珍らしゅうござりませぬ。この児《こ》に限って、悪戯《いたずら》をして、課業中、席から追出されるような事はあるまいが、どうしたものじゃ。……寒いで、まあ、当りなさいと、炉の縁へ坐らせまして、手前も胡坐《あぐら》を掻《か》いて、火をほじりほじり、仔細《しさい》を聞きましても、何も言わずに、恍惚《うっとり》したように鬱込《ふさぎこ》みまして、あの可愛げに掻合《かきあわ》せた美しい襟に、白う、そのふっくらとした顋《あ
前へ
次へ
全36ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング