う。貴下様組は、この時間御休憩で?」
「源助、その事だ。」
「はい。」
 と獅噛面《しかみづら》を後へ引込《ひっこ》めて目を据える。
 雑所は前のめりに俯向《うつむ》いて、一服吸った後を、口でふっふっと吹落して、雁首《がんくび》を取って返して、吸殻を丁寧に灰に突込《つっこ》み、
「閉込んでおいても風が揺《ゆす》って、吸殻一つも吹飛ばしそうでならん。危いよ、こんな日は。」
 とまた一つ灰を浴《あび》せた。瞳《ひとみ》を返して、壁の黒い、廊下を視《なが》め、
「可《い》い塩梅《あんばい》に、そっちからは吹通さんな。」
「でも、貴方様まるで野原でござります。お児達《こだち》の歩行《ある》いた跡は、平一面《たいらいちめん》の足跡でござりまするが。」
「むむ、まるで野原……」
 と陰気な顔をして、伸上って透かしながら、
「源助、時に、何、今|小児《こども》を一人、少し都合があって、お前達の何だ、小使溜《こづかいだまり》へ遣《や》ったっけが、何は、……部屋に居るか。」
「居《お》りまするで、しょんぼりとしましてな。はい、……あの、嬢ちゃん坊ちゃんの事でござりましょう、部屋に居りますでございますよ。
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