の実の、枝も撓々《たわわ》な処など、大人さえ、火の燃ゆるがごとく目に着くのである。
「家《うち》から持ってござったか。教場へ出て何の事じゃ、大方そのせいで雑所様に叱られたものであろう。まあ、大人しくしていなさい、とそう云うてやりまして、実は何でござります。……あの児《こ》のお詫《わび》を、と間を見ておりました処を、ちょうどお召でござりまして、……はい。何も小児でござります。日頃が日頃で、ついぞ世話を焼かした事の無い、評判の児でござりまするから、今日《こんにち》の処は、源助、あの児になりかわりまして御訴訟。はい、気が小さいかいたして、口も利けずに、とぼんとして、可哀《かわい》や、病気にでもなりそうに見えまするがい。」と揉手《もみで》をする。
「どうだい、吹く事は。酷《ひど》いぞ。」
 と窓と一所に、肩をぶるぶると揺《ゆす》って、卓子《テエブル》の上へ煙管《きせる》を棄《す》てた。
「源助。」
 と再度|更《あらたま》って、
「小児《こども》が懐中《ふところ》の果物なんか、袂《たもと》へ入れさせれば済む事よ。
 どうも変に、気に懸《かか》る事があってな、小児どころか、お互に、大人が、とぼん
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