とならなければ可《い》いが、と思うんだ。
昨日夢を見た。」
と注《つ》いで置きの茶碗に残った、冷《つめた》い茶をがぶりと飲んで、
「昨日な、……昨夜《ゆうべ》とは言わん。が、昼寝をしていて見たのじゃない。日の暮れようという、そちこち、暗くなった山道だ。」
「山道の夢でござりまするな。」
「否《や》、実際山を歩行《ある》いたんだ。それ、日曜さ、昨日は――源助、お前は自《おのず》から得ている。私は本と首引《くびッぴ》きだが、本草《ほんぞう》が好物でな、知ってる通り。で、昨日ちと山を奥まで入った。つい浮々《うかうか》と谷々へ釣込まれて。
こりゃ途中で暗くならなければ可《い》いが、と山の陰がちと憂慮《きづか》われるような日ざしになった。それから急いで引返したのよ。」
四
「山時分じゃないから人ッ子に逢《あ》わず。また茸狩《たけがり》にだって、あんなに奥まで行《ゆ》くものはない。随分|路《みち》でもない処を潜ったからな。三ツばかり谷へ下りては攀上《よじのぼ》り、下りては攀上りした時は、ちと心細くなった。昨夜《ゆうべ》は野宿かと思ったぞ。
でもな、秋とは違って、日の入《い
前へ
次へ
全36ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング