町では、時ならぬ水切《みずぎれ》がしていようという場合ではないか。土の底まで焼抜《やきぬ》けるぞ。小児たちが無事に家へ帰るのは十人に一人もむずかしい。
思案に余った、源助。気が気でないのは、時が後《おく》れて驚破《すわ》と言ったら、赤い実を吸え、と言ったは心細い――一時半時《いっときはんじ》を争うんだ。もし、ひょんな事があるとすると――どう思う、どう思う、源助、考慮《かんがえ》は。」
「尋常《ただ》、尋常ごとではござりません。」と、かッと卓子《テエブル》に拳《こぶし》を掴《つか》んで、
「城下の家の、寿命が来たんでござりましょう、争われぬ、争われぬ。」
と半分目を眠って、盲目《めくら》がするように、白眼《しろまなこ》で首を据えて、天井を恐ろしげに視《なが》めながら、
「ものはあるげにござりまして……旧藩頃の先主人が、夜学の端に承わります。昔その唐《から》の都の大道を、一時《あるとき》、その何でござりまして、怪しげな道人が、髪を捌《さば》いて、何と、骨だらけな蒼《あお》い胸を岸破々々《がばがば》と開けました真中《まんなか》へ、人《ひ》、人《ひと》という字を書いたのを掻開《かっぱだ》け
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