ッつりのように、びくりとした。
「読本が火の処……源助、どう思う。他《ほか》の先生方は皆《みん》な私より偉いには偉いが年下だ。校長さんもずッとお少《わか》い。
 こんな相談は、故老《ころう》に限ると思って呼んだ。どうだろう。万一の事があるとなら、あえて宮浜の児一人でない。……どれも大事な小児《こども》たち――その過失《あやまち》で、私が学校を止《や》めるまでも、地※[#「韋+鞴のつくり」、第3水準1−93−84]《じだんだ》を踏んでなりと直ぐに生徒を帰したい。が、何でもない事のようで、これがまた一大事だ。いやしくも父兄が信頼して、子弟の教育を委《ゆだ》ねる学校の分として、婦《おんな》、小児《こども》や、茱萸《ぐみ》ぐらいの事で、臨時休業は沙汰《さた》の限りだ。
 私一人の間抜《まぬけ》で済まん。
 第一そような迷信は、任《にん》として、私等が破って棄ててやらなけりゃならんのだろう。そうかッてな、もしやの事があるとすると、何より恐ろしいのはこの風だよ。ジャンと来て見ろ、全市|瓦《かわら》は数えるほど、板葺屋根《いたぶきやね》が半月の上も照込んで、焚附《たきつけ》同様。――何と私等が高台の
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