しい顔を見せて、外へ出るよう目で教える……一度逢ったばかりだけれども、小児は一目顔を見ると、もうその心が通じたそうよ。」

       七

「宮浜はな、今日は、その婦人が紅《あか》い木《こ》の実の簪《かんざし》を挿していた、やっぱり茱萸《ぐみ》だろうと云うが、果物の簪は無かろう……小児《こども》の目だもの、珊瑚《さんご》かも知れん。
 そんな事はとにかくだ。
 直ぐに、嬉々《いそいそ》と廊下から大廻りに、ちょうど自分の席の窓の外。その婦人の待っている処へ出ると、それ、散々に吹散らされながら、小児が一杯、ふらふらしているだろう。
 源助、それ、近々に学校で――やがて暑さにはなるし――余り青苔《あおごけ》が生えて、石垣も崩れたというので、井戸側《いどがわ》を取替えるに、石の大輪《おおわ》が門の内にあったのを、小児だちが悪戯《いたずら》に庭へ転がし出したのがある。――あれだ。
 大人なら知らず、円くて辷《すべ》るにせい、小児が三人や五人ではちょっと動かぬ。そいつだが、婦人が、あの児《こ》を連れて、すっと通ると、むくりと脈を打ったように見えて、ころころと芝の上を斜違《はすっか》いに転がり出
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