で遠くはなかったそうだ。荒れには荒れたが、大きな背戸へ裏木戸から連込んで、茱萸《ぐみ》の樹の林のような中へ連れて入った。目の※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《ふち》も赤らむまで、ほかほかとしたと云う。で、自分にも取れば、あの児にも取らせて、そして言う事が妙ではないか。
(沢山《たんと》お食《あが》んなさいよ。皆《みんな》、貴下《あなた》の阿母《おっか》さんのような美しい血になるから。)
と言ったんだそうだ。土産にもくれた。帰って誰が下すった、と父《おやじ》にそう言いましょうと、聞くと、
(貴下のお亡《なく》なんなすった阿母《おっかさん》のお友だちです。)
と言ったってな。あの児の母親はなくなった筈《はず》だ。
が、ここまではとにかく無事だ、源助。
その婦人が、今朝また、この学校へ来たんだとな。」
源助は、びくりとして退《さが》る。
「今度は運動場。で、十時の算術が済んだ放課の時だ。風にもめげずに皆《みんな》駆出すが、ああいう児だから、一人で、それでも遊戯さな……石盤へこう姉様《あねさま》の顔を描《か》いていると、硝子戸越《がらすどごし》に……夢にも忘れない……その美
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