あの蒼《あお》い門の柱の裏に、袖口を口へ当てて、小児《こども》の事で形は知らん。頭髪《かみ》の房々とあるのが、美しい水晶のような目を、こう、俯目《ふしめ》ながら清《すず》しゅう※[#「目+登」、第3水準1−88−91]《みは》って、列を一人一人|見遁《みのが》すまいとするようだっけ。
 物見の松はここからも見える……雲のようなはそればかりで、よくよく晴れた暖い日だったと云う……この十四五日、お天気続きだ。
 私も、毎日門外まで一同を連出すんだが、七日前にも二日こっちも、ついぞ、そんな娘を見掛けた事はない。しかもお前、その娘が、ちらちらと白い指でめんない千鳥をするように、手招きで引着けるから、うっかり列を抜けて、その傍《そば》へ寄ったそうよ。それを私は何も知らん。
(宮浜の浪ちゃんだねえ。)
 とこの国じゃない、本で読むような言《ことば》で聞くとさ。頷《うなず》くと、
(好《い》いものを上げますから私と一所に、さあ、行《ゆ》きましょう、皆《みんな》に構わないで。)
 と、私等を構わぬ分に扱ったは酷《ひど》い! なあ、源助。
 で、手を取られるから、ついて行《ゆ》くと、どこか、学校からさま
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