《ぶちぬ》く騒動だろう。
 もうな、火事と、聞くと頭から、ぐらぐらと胸へ響いた。
 騒がぬ顔して、皆《みんな》には、宮浜が急に病気になったから今手当をして来る。かねて言う通り静《しずか》にしているように、と言聞かしておいて、精々落着いて、まず、あの児をこの控所へ連れ出して来たんだ。
 処で、気を静めて、と思うが、何分、この風が、時々、かっと赤くなったり、黒くなったりする。な源助どうだ。こりゃ。」
 と云う時、言葉が途切れた。二人とも目を据えて瞻《みまも》るばかり、一時《ひとしきり》、屋根を取って挫《ひし》ぐがごとく吹き撲《なぐ》る。
「気が騒いでならんが。」
 と雑所は、しっかと腕組をして、椅子の凭《かか》りに、背中を摺着《すりつ》けるばかり、びたりと構えて、
「よく、宮浜に聞いた処が、本人にも何だか分らん、姉さんというのが見知らぬ女で、何も自分の姉という意味では無いとよ。
 はじめて逢ったのかと、尋ねる、とそうではない。この七日《なぬか》ばかり前だそうだ。
 授業が済んで帰るとなる、大勢列を造って、それな、門まで出る。足並を正さして、私が一二と送り出す……
 すると、この頃塗直した、
前へ 次へ
全36ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング