は源助より大分|少《わか》いが、仔細《しさい》も無かろう、けれども発心をしたように頭髪をすっぺりと剃附《そりつ》けた青道心《あおどうしん》の、いつも莞爾々々《にこにこ》した滑稽《おど》けた男で、やっぱり学校に居る、もう一人の小使である。
「同役(といつも云う、士《さむらい》の果《はて》か、仲間《ちゅうげん》の上りらしい。)は番でござりまして、唯今《ただいま》水瓶《みずがめ》へ水を汲込《くみこ》んでおりまするが。」
「水を汲込んで、水瓶へ……むむ、この風で。」
 と云う。閉込《しめこ》んだ硝子窓《がらすまど》がびりびりと鳴って、青空へ灰汁《あく》を湛《たた》えて、上から揺《ゆす》って沸立たせるような凄《すさ》まじい風が吹く。
 その窓を見向いた片頬《かたほ》に、颯《さっ》と砂埃《すなほこり》を捲《ま》く影がさして、雑所は眉を顰《ひそ》めた。
「この風が、……何か、風……が烈《はげ》しいから火の用心か。」
 と唐突《だしぬけ》に妙な事を言出した。が、成程、聞く方もその風なれば、さまで不思議とは思わぬ。
「いえ、かねてお諭しでもござりますし、不断十分に注意はしまするが、差当り、火の用心と申す
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