み》のように、どっと一時《いっとき》に吹出しましたに因って存じておりまする。」と源助の言《ことば》つき、あたかも口上。何か、恐入っている体《てい》がある。
「夜があけると、この砂煙《すなけぶり》。でも人間、雲霧を払った気持だ。そして、赤合羽の坊主の形もちらつかぬ。やがて忘れてな、八時、九時、十時と何事もなく課業を済まして、この十一時が読本《とくほん》の課目なんだ。
 な、源助。
 授業に掛《かか》って、読出した処が、怪訝《おかし》い。消火器の説明がしてある、火事に対する種々《いろいろ》の設備のな。しかしもうそれさえ気にならずに業をはじめて、ものの十分も経《た》ったと思うと、入口の扉を開けて、ふらりと、あの児《こ》が入って来たんだ。」
「へい、嬢ちゃん坊ちゃんが。」
「そう。宮浜がな。おや、と思った。あの児は、それ、墨の中に雪だから一番目に着く。……朝、一二時間ともちゃんと席に着いて授業を受けたんだ。――この硝子窓《がらすまど》の並びの、運動場のやっぱり窓際に席があって、……もっとも二人並んだ内側の方だが。さっぱり気が着かずにいた。……成程、その席が一ツ穴になっている。
 また、箸《はし
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