か》に赤合羽《あかがっぱ》を着た、大きな坊主だ。」
「へい。」と源助は声を詰めた。
「真黒《まっくろ》な円い天窓《あたま》を露出《むきだし》でな、耳元を離した処へ、その赤合羽の袖を鯱子張《しゃちこば》らせる形に、大《おおき》な肱《ひじ》を、ト鍵形《かぎなり》に曲げて、柄の短い赤い旗を飜々《ひらひら》と見せて、しゃんと構えて、ずんずん通る。……
 旗《はた》は真赤《まっか》に宙を煽《あお》つ。
 まさかとは思う……ことにその言った通り人恋しい折からなり、対手《あいて》の僧形《そうぎょう》にも何分《なにぶん》か気が許されて、
(御坊、御坊。)
 と二声ほど背後《うしろ》で呼んだ。」

       五

「物凄《ものすご》さも前《さき》に立つ。さあ、呼んだつもりの自分の声が、口へ出たか出んか分らないが、一も二もない、呼んだと思うと振向いた。
 顔は覚えぬが、頤《あご》も額も赤いように思った。
(どちらへ?)
 と直ぐに聞いた。
 ト竹を破《わ》るような声で、
(城下を焼きに参るのじゃ。)と言う。ぬいと出て脚許《あしもと》へ、五つ六つの猿が届いた。赤い雲を捲《ま》いたようにな、源助。」
「…
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