静まり返って、さっさっさっと動く、熊笹がざわつくばかりだ。
夢だろう、夢でなくって。夢だと思って、源助、まあ、聞け。……実は夢じゃないんだが、現在見たと云ってもほんとにはしまい。」
源助はこれを聞くと、いよいよ渋って、頤《あご》の毛をすくすくと立てた。
「はあ。」
と息を内へ引きながら、
「随分、ほんとうにいたします。場所がらでござりまするで。雑所様、なかなか源助は疑いませぬ。」
「疑わん、ほんとに思う。そこでだ、源助、ついでにもう一ツほんとにしてもらいたい事がある。
そこへな、背後《うしろ》の、暗い路をすっと来て、私に、ト並んだと思う内に、大跨《おおまた》に前へ抜越《ぬけこ》したものがある。……
山遊びの時分には、女も駕籠《かご》も通る。狭くはないから、肩摺《かたず》れるほどではないが、まざまざと足が並んで、はっと不意に、こっちが立停《たちど》まる処を、抜けた。
下闇《したやみ》ながら――こっちももう、僅《わず》かの処だけれど、赤い猿が夥《おびただ》しいので、人恋しい。
で透かして見ると、判然《はっきり》とよく分った。
それも夢かな、源助、暗いのに。――
裸体《はだ
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