も、大橋の小さな灯も、何も見えぬ。
ざわざわざわざわと音がする。……樹の枝じゃ無い、右のな、その崖《がけ》の中腹ぐらいな処を、熊笹《くまざさ》の上へむくむくと赤いものが湧《わ》いて出た。幾疋《いくひき》となく、やがて五六十、夕焼がそこいらを胡乱《うろ》つくように……皆《みんな》猿だ。
丘の隅にゃ、荒れたが、それ山王《さんのう》の社《やしろ》がある。時々山奥から猿が出て来るという処だから、その数の多いにはぎょっとしたが――別に猿というに驚くこともなし、また猿の面《つら》の赤いのに不思議はないがな、源助。
どれもこれも、どうだ、その総身の毛が真赤《まっか》だろう。
しかも数が、そこへ来た五六十疋という、そればかりじゃない。後へ後へと群《むらが》り続いて、裏山の峰へ尾を曳《ひ》いて、遥《はる》かに高い処から、赤い滝を落し懸けたのが、岩に潜《くぐ》ってまた流れる、その末の開いた処が、目の下に見える数よ。最も遠くの方は中絶えして、一ツ二ツずつ続いたんだが、限りが知れん、幾百居るか。
で、何の事はない、虫眼鏡で赤蟻《あかあり》の行列を山へ投懸けて視《なが》めるようだ。それが一ツも鳴かず、
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