》はたちまち力を得て、ここを先途《せんど》と漕《こ》げども、盪《お》せども、ますます暴《あ》るる浪《なみ》の勢《いきおい》に、人の力は限《かぎり》有《あ》りて、渠《かれ》は身神《しんしん》全く疲労して、将《まさ》に昏倒《こんとう》せんとしたりければ、船は再び危《あやう》く見えたり。
「取舵《とりかじ》!」と雷《らい》のごとき声はさらに一喝《いっかつ》せり。半死の船子《ふなこ》は最早《もはや》神明《しんめい》の威令《いれい》をも奉《ほう》ずる能《あた》わざりき。
 学生の隣に竦《すく》みたりし厄介者《やっかいもの》の盲翁《めくらおやじ》は、この時《とき》屹然《きつぜん》と立ちて、諸肌《もろはだ》寛《くつろ》げつつ、
「取舵《とりかじ》だい※[#感嘆符二つ、1−8−75]」と叫ぶと見えしが、早くも舳《とも》の方《かた》へ転行《ころげゆ》き、疲れたる船子《ふなこ》の握れる艪《ろ》を奪いて、金輪際《こんりんざい》より生えたるごとくに突立《つった》ちたり。
「若い衆《しゅ》、爺《おやじ》が引受けた!」
 この声とともに、船子《ふなこ》は礑《はた》と僵《たお》れぬ。
 一|艘《そう》の厄介船《やっ
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