ま》じさに、剛気《ごうき》の船子《ふなこ》も※[#「口+阿」、第4水準2−4−5]呀《あなや》と驚き、腕《かいな》の力を失う隙《ひま》に、艫《へさき》はくるりと波に曳《ひか》れて、船は危《あやう》く傾《かたぶ》きぬ。
しなしたり! と渠《かれ》はますます慌《あわ》てて、この危急に処すべき手段を失えり。得たりやと、波と風とはますます暴《あ》れて、この艀《はしけ》をば弄《もてあそ》ばんと企《くわだ》てたり。
乗合《のりあい》は悲鳴して打《うち》騒ぎぬ。八人の船子《ふなこ》は効《かい》無き櫓柄《ろづか》に縋《すが》りて、
「南無金毘羅大権現《なむこんぴらだいごんげん》!」と同音《どうおん》に念ずる時、胴《どう》の間《ま》の辺《あたり》に雷《らい》のごとき声ありて、
「取舵《とりかじ》!」
舳櫓《ともろ》の船子《ふなこ》は海上|鎮護《ちんご》の神の御声《みこえ》に気を奮《ふる》い、やにわに艪《ろ》をば立直して、曳々《えいえい》声を揚《あ》げて盪《お》しければ、船は難無《なんな》く風波《ふうは》を凌《しの》ぎて、今は我物なり、大権現《だいごんげん》の冥護《みょうご》はあるぞ、と船子《ふなこ
前へ
次へ
全26ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング