めんあわせ》の條柄《しまがら》も分かぬまでに着古したるを後※[#「寨」の「木」に代えて「衣」、第3水準1−91−84]《しりからげ》にして、継々《つぎつぎ》の股引《ももひき》、泥塗《どろまぶれ》の脚絆《きゃはん》、煮染《にし》めたるばかりの風呂敷包《ふろしきづつみ》を斜めに背負い、手馴《てなら》したる白※[#「木+諸」、第3水準1−86−25]《しらかし》の杖と一蓋《いっかい》の菅笠《すげがさ》とを膝《ひざ》の辺りに引寄せつ。産《うまれ》は加州《かしゅう》の在《ざい》、善光寺|詣《もうで》の途《みち》なる由《よし》。
天気は西の方《かた》曇りて、東晴れたり。昨夜《ゆうべ》の雨に甲板《デッキ》は流るるばかり濡れたれば、乗客の多分《おおく》は室内に籠《こも》りたりしが、やがて日光の雲間を漏れて、今は名残《なごり》無く乾きたるにぞ、蟄息《ちっそく》したりし乗客|等《ら》は、先を争いて甲板《デッキ》に顕《あらわ》れたる。
観音丸《かんのんまる》は船体|小《しょう》にして、下等室は僅《わずか》に三十余人を容《い》れて肩摩《けんま》すべく、甲板《デッキ》は百人を居《お》きて余《あまり》あるべし
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