こぎおさめ》だというんだ。面白《おもしろ》かろう。」
 渠《かれ》の友は嗤笑《せせらわら》いぬ。
「赤飯《こわめし》を貰《もら》ッたと思ってひどく面白がるぜ。」
「こりゃ怪《け》しからん! 僕が[#「怪《け》しからん! 僕が」は底本では「怪《け》しからん!僕が」]赤飯《こわめし》のために面白がるなら、君なんぞは難有《ありがた》がッていいのだ。」
「なぜなぜ。」と渠《かれ》は起回《おきかえ》れり。
「その葉巻《はまき》はどうした。」
「うむ、なるほど。面白い、面白い、面白い話だ。」
 渠《かれ》は再び横になりて謹聴《きんちょう》せり。学生は一笑《いっしょう》して後《のち》件《くだん》の譚《はなし》を続けたり。
「その祝《いわい》の赤飯《こわめし》だ。その上に船賃《ふなちん》を取らんのだ。乗合《のりあい》もそれは目出度《めでたい》と言うので、いくらか包んで与《や》る者もあり、即吟《そくぎん》で無理に一句浮べる者もありさ。まあ思《おも》い思いに祝《いわ》ッてやったと思《おも》いたまえ。」
 例の饒舌先生はまた呶々《どゝ》せり。
「君は何を祝った。」
「僕か、僕は例の敷島《しきしま》の道さ。」
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