ていたので、すぐに乗込《のりこ》んだ。船頭は未だ到《い》なかッたが、所《ところ》の壮者《わかいもの》だの、娘だの、女房《かみさん》達が大勢で働いて、乗合《のりあい》に一箇《ひとつ》ずつ折《おり》をくれたと思い給え。見ると赤飯《こわめし》だ。」
「塩釜《しおがま》よりはいい。」とその友は容喙《まぜかえ》せり。
「謹聴《きんちょう》の約束じゃないか。まあ聴き給えよ。見ると赤飯《こわめし》だ。」
「おや。二個《ふたつ》貰《もら》ッたのか。だから近来《ちかごろ》はどこでも切符を出すのだ。」
この饒舌《じょうぜつ》を懲《こら》さんとて、学生は物をも言わで拳《こぶし》を挙《あ》げぬ。
「謝《あやま》ッた謝ッた。これから真面目《まじめ》に聴く。よし、見ると赤飯《こわめし》だ。それは解《わか》ッた。」
「そこで……」
「食ったのか。」
「何を?」
「いや、よし、それから。」
「これはどういう事実だと聞くと、長年この渡《わたし》をやッていた船頭が、もう年を取ッたから、今度|息子《むすこ》に艪《ろ》を譲ッて、いよいよ隠居《いんきょ》をしようという、この日《ひ》が老船頭、一世一代《いっせいちだい》の漕納《
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