を打って花に日の光が動いたのである。濃く香《かぐわ》しい、その幾重《いくえ》の花葩《はなびら》の裡《うち》に、幼児《おさなご》の姿は、二つながら吸われて消えた。
……ものには順がある。――胸のせまるまで、二人が――思わず熟《じっ》と姉妹《きょうだい》の顔を瞻《みまも》った時、忽《たちま》ち背中で――もお――と鳴いた。
振向くと、すぐ其処《そこ》に小屋があって、親が留守の犢《こうし》が光った鼻を出した。
――もお――
濡れた鼻息は、陽炎《かげろう》に蒸されて、長閑《のどか》に銀粉《ぎんぷん》を刷《は》いた。その隙《ひま》に、姉妹《きょうだい》は見えなくなったのである。桃の花の微笑《ほほえ》む時、黙って顔を見合せた。
子のない夫婦は、さびしかった。
おなじようなことがある。様子はちょっと違っているが、それも修善寺で、時節は秋の末、十一月はじめだから、……さあ、もう冬であった。
場所は――前記のは、桂川《かつらがわ》を上《のぼ》る、大師《だいし》の奥の院へ行く本道と、渓流を隔てた、川堤の岐路《えだみち》だった。これは新停車場《しんていしゃじょう》へ向って、ずっと滝の末ともいおう
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