ども、それにはこの陽気だ、蛇体《じゃたい》という障碍《しょうげ》があって、望むものの方に、苦行《くぎょう》が足りない。で、その小さなのを五、六本。園女《そのじょ》の鼻紙の間に何とかいう菫《すみれ》に恥よ。懐にして、もとの野道へ出ると、小鼓は響いて花菜《はなな》は眩《まばゆ》い。影はいない。――彼処《かしこ》に、路傍《みちばた》に咲き残った、紅梅《こうばい》か。いや桃だ。……近くに行ったら、花が自《おのずか》ら、ものを言おう。
その町の方へ、近づくと、桃である。根に軽く築《つ》いた草堤《くさづつみ》の蔭から、黒い髪が、額《ひたい》が、鼻が、口が、おお、赤い帯が、おなじように、揃《そろ》って、二人出て、前刻《せんこく》の姉妹《きょうだい》が、黙って……襟肩《えりかた》で、少しばかり、極りが悪いか、むずむずしながら、姉が二本、妹が一本、鼓草《たんぽぽ》の花を、すいと出した。
「まあ、姉《ねえ》ちゃん。」
「どうも、ありがとう。」
私も今はかぶっていた帽を取って、その二本の方を慾張《よくば》った。
とはいえ、何となく胸に響いた。響いたのは、形容でも何でもない。川音がタタと鼓草《たんぽぽ》
前へ
次へ
全10ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング