」
肩に耳の附着《くッつ》くほど、右へ顔を傾けて、も一つ左へ傾けたから、
「わらび――……小さなのでもいいの、かわいらしい、あなたのような。」
この無遠慮な小母《おば》さんに、妹はあっけに取られたが、姉の方は頷《うなず》いた。
「はい、お煎餅《せんべい》、少しですよ。……お二人でね……」
お駄賃《だちん》に、懐紙《かいし》に包んだのを白銅製のものかと思うと、銀の小粒で……宿の勘定前だから、怪しからず気前が好い。
女の子は、半分気味の悪そうに狐に魅《つま》まれでもしたように掌《てのひら》に受けると――二人を、山裾《やますそ》のこの坂口まで、導いて、上へ指さしをした――その来た時とおんなじに妹の手を引いて、少しせき足にあの径《みち》を、何だか、ふわふわと浮いて行《ゆ》く。……
さて、二人がその帰り道である。なるほど小さい、白魚《しらうお》ばかり、そのかわり、根の群青《ぐんじょう》に、薄く藍《あい》をぼかして尖《さき》の真紫《まむらさき》なのを五、六本。何、牛に乗らないだけの仙家《せんか》の女《め》の童《わらわ》の指示《しめし》である……もっと山高く、草深く分入《わけい》ればだけれ
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