かぶと》、いや、中折《なかおれ》の古帽を脱いで、薄くなった折目を気にして、そっと撫《な》でて、杖《つえ》の柄《え》に引っ掛けて、ひょいと、かつぐと、
「そこで端折《はしょ》ったり、じんじんばしょり、頬かぶり。」
と、うしろから婦《おんな》がひやかす。
「それ、狐がいる。」
「いやですよ。」
何を、こいつら……大みそかの事を忘れたか。新春の読《よみ》ものだからといって、暢気《のんき》らしい。
田畑を隔てた、桂川《かつらがわ》の瀬の音も、小鼓《こつづみ》に聞えて、一方、なだらかな山懐《やまふところ》に、桜の咲いた里景色《さとげしき》。
薄い桃も交《まじ》っていた。
近くに藁屋《わらや》も見えないのに、その山裾《やますそ》の草の径《みち》から、ほかほかとして、女の子が――姉妹《きょうだい》らしい二人づれ。……時間を思っても、まだ小学校前らしいのが、手に、すかんぼも茅花《つばな》も持たないけれど、摘み草の夢の中を歩行《ある》くように、うっとりとした顔をしたのと、径《みち》の角で行逢《ゆきあ》った。
「今日《こんち》は、姉《ねえ》ちゃん、蕨《わらび》のある処《ところ》を教えて下さいな。
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