へし》に遭《あ》はざるはなかりし。渠等《かれら》の無頼《ぶらい》なる幾度《いくたび》も此《この》擧動《きよどう》を繰返《くりかへ》すに憚《はゞか》る者《もの》ならねど、衆《ひと》は其《その》乞《こ》ふが隨意《まゝ》に若干《じやくかん》の物品《もの》を投《とう》じて、其《その》惡戲《あくぎ》を演《えん》ぜざらむことを謝《しや》するを以《も》て、蛇食《へびくひ》の藝《げい》は暫時《ざんじ》休憩《きうけい》を呟《つぶや》きぬ。
 渠等《かれら》米錢《べいせん》を惠《めぐ》まるゝ時《とき》は、「お月樣《つきさま》幾《いく》つ」と一齊《いつせい》に叫《さけ》び連《つ》れ、後《あと》をも見《み》ずして走《はし》り去《さ》るなり。ただ貧家《ひんか》を訪《と》ふことなし。去《さ》りながら外面《おもて》に窮乏《きうばふ》を粧《よそほ》ひ、嚢中《なうちう》却《かへつ》て温《あたゝか》なる連中《れんぢう》には、頭《あたま》から此《この》一藝《いちげい》を演《えん》じて、其家《そこ》の女房《にようばう》娘等《むすめら》が色《いろ》を變《へん》ずるにあらざれば、決《けつ》して止《や》むることなし。法《はふ》はい
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