、ちょんと坐ってて言う。誰でも構わん。この六尺等身と称《とな》うる木像はよく出来ている。山車《だし》や、芝居で見るのとは訳《わけ》が違う。
 顔の色が蒼白い。大きな折烏帽子《おりえぼし》が、妙に小さく見えるほど、頭も顔も大の悪僧の、鼻が扁《ひらた》く、口が、例の喰《くい》しばった可恐《おそろ》しい、への字形でなく、唇を下から上へ、へ[#「へ」に傍点]の字を反対に掬《しゃく》って、
「むふッ。」
 ニタリと、しかし、こう、何か苦笑《にがわらい》をしていそうで、目も細く、目皺《めじわ》が優しい。出額《おでこ》でまたこう、しゃくうように人を視《み》た工合が、これで魂《たましい》が入ると、麓《ふもと》の茶店へ下りて行って、少女《こおんな》の肩を大《おおき》な手で、
「どうだ。」
 と遣《や》りそうな、串戯《じょうだん》ものの好々爺《こうこうや》の風がある。が、歯が抜けたらしく、豊《ゆたか》な肉の頬のあたりにげっそりと窶《やつれ》の見えるのが、判官《ほうがん》に生命《いのち》を捧げた、苦労のほどが偲《しの》ばれて、何となく涙ぐまるる。
 で、本文《ほんもん》通り、黒革縅《くろかわおどし》の大鎧《
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