おおよろい》、樹蔭《こかげ》に沈んだ色ながら鎧《よろい》の袖《そで》は颯爽《さっそう》として、長刀《なぎなた》を軽くついて、少し屈《こご》みかかった広い胸に、兵《えもの》の柄《え》のしなうような、智と勇とが満ちて見える。かつ柄も長くない、頬先《ほおさき》に内側にむけた刃も細い。が、かえって無比の精鋭を思わせて、颯《さっ》と掉《ふ》ると、従って冷い風が吹きそうである。
 別に、仏菩薩《ぶつぼさつ》の、尊《とうと》い古像が架《か》に据えて数々ある。
 みどり児《ご》を、片袖《かたそで》で胸に抱《いだ》いて、御顔《おんかお》を少し仰向《あおむ》けに、吉祥果《きっしょうか》の枝を肩に振掛《ふりか》け、裳《もすそ》をひらりと、片足を軽く挙げて、――いいぐさは拙《つたな》いが、舞《まい》などしたまう状《さま》に、たとえば踊りながらでんでん太鼓で、児《こ》をおあやしのような、鬼子母神《きしぼじん》の像があった。御面《おんおもて》は天女に斉《ひと》しい。彩色《いろどり》はない。八寸ばかりのほのぐらい、が活けるが如き木彫《きぼり》である。
「戸を開けて拝んでは悪いんでしょうか。」
 置手拭《おきてぬぐい
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