よ、とこう野中《のなか》の、しかも路の傍《はた》に、自由に咲いたのは殆ど見た事がない。
そこへ、つつじの赤いのが、ぽーとなって咲交《さきまじ》る。……
が、燃立《もえた》つようなのは一株も見えぬ。霜《しも》に、雪に、長く鎖《とざ》された上に、風の荒ぶる野に開く所為《せい》であろう、花弁が皆堅い。山吹は黄なる貝を刻んだようで、つつじの薄紅《うすくれない》は珊瑚《さんご》に似ていた。
音のない水が、細く、その葉の下、草の中を流れている。それが、潺々《せんせん》として巌《いわ》に咽《むせ》んで泣く谿河《たにがわ》よりも寂《さみ》しかった。
実際、この道では、自分たちのほか、人らしいものの影も見なかったのである。
そのかわり、牛が三頭、犢《こうし》を一頭《ひとつ》連れて、雌雄《めすおす》の、どれもずずんと大《おおき》く真黒なのが、前途《ゆくて》の細道を巴形《ともえがた》に塞《ふさ》いで、悠々と遊んでいた、渦が巻くようである。
これにはたじろいだ。
「牛飼《うしかい》も何もいない。野放しだが大丈夫かい。……彼奴《あいつ》猛獣だからね。」
「何ともしゃあしましねえ。こちとら馴染《なじみ
前へ
次へ
全27ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング