床も、承塵《なげし》も、柱は固《もと》より、彳《たたず》めるものの踏む処《ところ》は、黒漆《こくしつ》の落ちた黄金《きん》である。黄金《きん》の剥《は》げた黒漆とは思われないで、しかも些《さ》のけばけばしい感じが起らぬ。さながら、金粉の薄雲の中に立った趣《おもむき》がある。われら仙骨《せんこつ》を持たない身も、この雲はかつ踏んでも破れぬ。その雲を透《すか》して、四方に、七宝荘厳《しっぽうそうごん》の巻柱《まきばしら》に対するのである。美しき虹を、そのまま柱にして絵《えが》かれたる、十二光仏《じゅうにこうぶつ》の微妙なる種々相《しゅじゅそう》は、一つ一つ錦《にしき》の糸に白露《しらつゆ》を鏤《ちりば》めた如く、玲瓏《れいろう》として珠玉《しゅぎょく》の中にあらわれて、清く明《あきら》かに、しかも幽《かすか》なる幻である。その、十二光仏の周囲には、玉、螺鈿《らでん》を、星の流るるが如く輝かして、宝相華《ほうそうげ》、勝曼華《しょうまんげ》が透間《すきま》もなく咲きめぐっている。
この柱が、須弥壇《しゅみだん》の四隅《しぐう》にある、まことに天上の柱である。須弥壇は四座《しざ》あって、
前へ
次へ
全27ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング