。それが荘厳であった。日の光が幽《かすか》に漏《も》れた。
裏門の方へ出ようとする傍《かたわら》に、寺の廚《くりや》があって、其処《そこ》で巡覧券を出すのを、車夫《わかいしゅ》が取次いでくれる。巡覧すべきは、はじめ薬師堂《やくしどう》、次の宝物庫《ほうもつこ》、さて金色堂《こんじきどう》、いわゆる光堂《ひかりどう》。続いて経蔵《きょうぞう》、弁財天《べんざいてん》と言う順序である。
皆、参詣の人を待って、はじめて扉を開く、すぐまたあとを鎖《とざ》すのである。が、宝物庫《ほうもつぐら》には番人がいて、経蔵には、年紀《とし》の少《わか》い出家が、火の気もなしに一人|経机《きょうづくえ》に対《むか》っていた。
はじめ、薬師堂に詣でて、それから宝物庫《ほうもつぐら》を一巡すると、ここの番人のお小僧が鍵を手にして、一条《ひとすじ》、道を隔てた丘の上に導く。……階《きざはし》の前に、八重桜《やえざくら》が枝も撓《たわわ》に咲きつつ、かつ芝生に散って敷いたようであった。
桜は中尊寺の門内にも咲いていた。麓《ふもと》から上《あが》ろうとする坂の下の取着《とッつき》の処《ところ》にも一本《ひとも
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