を進めたる、其もまた黒かりき。貴女は手をだに触れむとせで、
「きれいなのでなくつては。」
と静にかぶりをふりつゝいふ。
「えゝ。」と少年は力を籠めて、ざら/\とぞ掻いたりける。雪は崩れ落ちて砂にまぶれつ。
渋々捨てて、新しきを、また別なるを、更に幾度か挽いたれど、鋸につきたる炭の粉の、其都度雪を汚しつつ、はや残り少なに成りて、笹の葉に蔽はれぬ。
貴女は身動《みじろ》きもせず、瞳をすゑて、冷かに瞻《みまも》りたり。少年は便《たより》なげに、
「お母様《つかさん》に叱られら。お母様《つかさん》に叱られら。」
と訴ふるが如く呟きたれど、耳にもかけざる状《さま》したりき。附添ひたる腰元は、笑止と思ひ、
「まあ、何うしたと言ふのだね、お前、変ぢやないか。いけないね。」
とたしなめながら、
「可哀さうでございますから、あの……」と取做《とりな》すが如くにいふ。
「いゝえ。」
と、にべもなく言《い》ひすてて、袖も動かさで立ちたりき。少年は上目づかひに、腰元の顔を見しが、涙ぐみて俯《うつむ》きぬ。
雪《ゆき》の砕《くだ》けて落散りたるが、見る/\水になりて流れて、けぶり立ちて、地の濡色も
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