し。
丈高き貴女のつむりは、傘のうらに支ふるばかり、青き絹の裏、眉のあたりに影をこめて、くらく光るものあり、黒髪にきらめきぬ。
怪しと美少年の見返る時、彼《か》の貴女、腰元を顧みしが、やがて此方《こなた》に向ひて、
「あの、少しばかり。」
暑さと疲労《つかれ》とに、少年はものも言ひあへず、纔《わずか》に頷きて、筵を解きて、笹の葉の濡れたるをざわ/\と掻分けつ。
雫落ちて、雪の塊は氷室より切出したるまゝ、未だ角も失せざりき。其一角をば、鋸もて切取りて、いざとて振向く。睫《まつげ》に額の汗つたひたるに、手の塞《ふさ》がりたれば、拭ひもあへで眼を塞ぎつ。貴女の手に捧げたる雪の色は真黒なりき。
「この雪は、何《ど》うしたの。」
美少年はものをも言はで、直ちに鋸の刃を返して、さら/\と削り落すに、粉はばら/\とあたりに散り、ぢ、ぢ、と蝉の鳴きやむ音して、焼砂に煮え込みたり。
二
あきなひに出づる時、継母の心なく嘗《かつ》て炭を挽きしまゝなる鋸を持たせしなれば、さは雪の色づくを、少年は然りとも知らで、削り落し払ふまゝに、雪の量は掌《たなそこ》に小さくなりぬ。
別に新しき
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