られざる野の細道を、十歳《とお》ばかりの美少年の、尻を端折《はしよ》り、竹の子笠被りたるが、跣足《はだし》にて、
「氷や、氷や。」
と呼びもて来つ。其より市に行かんとするなり。氷は筵包《むしろづつみ》にして天秤に釣したる、其片端には、手ごろの石を藁縄《わらなわ》もて結びかけしが、重きもの荷ひたる、力なき身体のよろめく毎に、石は、ふらゝこの如くはずみて揺れつ。
とかうして、此の社の前に来りし時、太き息つきて立停りぬ。
笠は目深《まぶか》に被りたれど、日の光は遮らで、白き頸《うなじ》も赤らみたる、渠《かれ》はいかに暑かりけむ。
蚯蚓《みみず》の骸《むくろ》の干乾びて、色黒く成りたるが、なかばなま/\しく、心ばかり蠢《うごめ》くに、赤き蟻の群りて湧くが如く働くのみ、葉末の揺るゝ風もあらで、平たき焼石の上に何とか言ふ、尾の尖《さき》の少し黒き蜻蛉《とんぼ》の、ひたと居て動きもせざりき。
かゝる時、社の裏の木蔭より婦人《おんな》二人出で来れり。一人は涼傘《ひがさ》畳み持ちて、細き手に杖としたる、いま一人は、それよりも年|少《わか》きが、伸上るやうにして、背後より傘さしかけつ。腰元なるべ
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