下げ]
三羽の烏、ばさ/\と寄り、頭《こうべ》を、手を、足を、ふん/\と嚊《か》ぐ。
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一の烏 堪《たま》らぬ香《におい》だ。
三の烏 あゝ、旨《うま》さうな。
二の烏 いや、まだ然《そ》うは成るまいか。此の歯をくひしばつた処《ところ》を見い。総じて寝て居ても口を結んだ奴は、蓋《ふた》をした貝だと思へ。うかつに嘴《はし》を入れると最後、大事な舌を挟まれる。やがて意地汚《いじきたな》の野良犬《のらいぬ》が来て舐《な》めよう。這奴《しゃつ》四足《よつあし》めに瀬踏《せぶみ》をさせて、可《よ》いと成つて、其の後《あと》で取蒐《とりかか》らう。食《くい》ものが、悪いかして。脂《あぶら》のない人間だ。
一の烏 此の際、乾《ひ》ものでも構はぬよ。
二の烏 生命《いのち》がけで乾《ひ》ものを食つて、一分《いちぶん》が立つと思ふか、高蒔絵《たかまきえ》のお肴《とと》を待て。
三の烏 や、待つと云へば、例の通り、ほんのりと薫《かお》つて来た。
一の烏 おゝ、人臭《ひとくさ》いぞ。そりや、女のにほひだ。
二の烏 はて、下司《げす》な奴、
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