い》などは、余り喝采《やんや》とは参らぬ図だ。誰も誰も、食《くら》ふためには、品《ひん》も威も下げると思へ。然《さ》までにして、手に入れる餌食だ。突《つつ》くと成れば会釈はない。骨までしやぶるわ。餌食の無慙《むざん》さ、いや、又|其《そ》の骨の肉汁《ソップ》の旨《うま》さはよ。(身震ひする。)
一の烏 (聞く半《なか》ばより、じろ/\と酔臥《よいふ》したる画工を見て居《お》り)おふた、お二《ふた》どの。
二の烏 あい。
三の烏 あい、と吐《ぬか》す、魔ものめが、ふて/″\しい。
二の烏 望みとあらば、可愛《かわい》い、とも鳴くわ。
一の烏 いや、串戯《じょうだん》は措《お》け。俺は先刻《さっき》から思ふ事だ、待設《まちもう》けの珍味も可《い》いが、こゝに目の前に転がつた餌食は何《ど》うだ。
三の烏 其の事よ、血の酒に酔ふ前に、腹へ底を入れて置く相談には成るまいかな。何分《なにぶん》にも空腹だ。
二の烏 御同然《ごどうぜん》に夜食前よ。俺も一先《いっさき》に心付《こころづ》いては居るが、其の人間は未《ま》だ食頃《くいごろ》には成らぬと思ふ。念のために、面《つら》を見ろ。
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