し》よ、旋風《つむじかぜ》だ。一溜《ひとたま》りもなく吹散《ふきち》らす。あゝ、無慙《むざん》な。
一の烏 と云ふ嘴《くちばし》を、こつ/\鳴らいて、内々《ないない》其の吹き散るのを待つのは誰だ。
二の烏 はゝゝはゝ、俺達だ、はゝゝはゝ。先《ま》づ口だけは体《てい》の可《い》い事を言うて、其の実はお互に餌食《えじき》を待つのだ。又、此の花は、紅玉の蕊《しべ》から虹に咲いたものだが、散る時は、肉に成り、血に成り、五色《ごしき》の膓《はらわた》と成る。やがて見ろ、脂《あぶら》の乗つた鮟鱇《あんこう》のひも、と云ふ珍味を、つるりだ。
三の烏 何時《いつ》の事だ、あゝ、聞いただけでも堪《たま》らぬわ。(ばた/\と羽《はね》を煽《あお》つ。)
二の烏 急ぐな、どつち道俺たちのものだ。餌食が其の柔かな白々《しろじろ》とした手足を解《と》いて、木の根の塗膳《ぬりぜん》、錦手《にしきで》の木《こ》の葉《は》の小皿盛《こざらもり》と成るまでは、精々《せいぜい》、咲いた花の首尾を守護して、夢中に躍跳《おどりは》ねるまで、楽《たのし》ませて置かねば成らん。網《あみ》で捕《と》つたと、釣《つ》つたとでは、鯛《
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