が済む。嘴《くちばし》を引傾《ひっかた》げて、ことん/\と案じて見れば、われらは、これ、余り性《たち》の善《い》い夥間《なかま》でないな。
一の烏 いや、悪い事は少しもない。人間から言はせれば、善《よ》いとも悪いとも言はうがまゝだ。俺は唯《ただ》屋《や》の棟《むね》で、例の夕飯《ゆうめし》を稼《かせ》いで居たのだ。処《ところ》で艶麗《あでやか》な、奥方とか、それ、人間界で言ふものが、虹《にじ》の目だ、虹の目だ、と云ふものを(嘴《くちばし》を指《さ》す)此の黒い、鼻の先へひけらかした。此の節、肉どころか、血どころか、贅沢《ぜいたく》な目玉《めだま》などはつひに賞翫《しょうがん》した験《ためし》がない。鳳凰《ほうおう》の髄《ずい》、麒麟《きりん》の腮《えら》さへ、世にも稀《まれ》な珍味と聞く。虹の目玉だ、やあ、八千年|生延《いきの》びろ、と逆落《さかおと》しの廂《ひさし》はづれ、鵯越《ひよどりごえ》を遣《や》つたがよ、生命《いのち》がけの仕事と思へ。鳶《とび》なら油揚《あぶらげ》も攫《さら》はうが、人間の手に持つたまゝを引手繰《ひったぐ》る段は、お互に得手《えて》でない。首尾よく、かちりと
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