ど》の処《ところ》でございます。あの木戸は、私《わたし》が御奉公申しましてから、五年と申しますもの、お開《あ》け遊ばした事と云つては一度もなかつたのでございます。
紳士 うむ、あれは開《あ》けるべき木戸ではないのぢや。俺が覚えてからも、止《や》むを得ん凶事で二度だけは開《あ》けんければ成らんぢやつた。が、其とても凶事を追出《おいだ》いたばかりぢや。外から入つて来た不祥《ふしょう》はなかつた。――其が其の時、汝《きさま》の手で開《あ》いたのか。
侍女 えゝ、錠の鍵は、がつちりさゝつて居《お》りましたけれど、赤錆《あかさび》に錆切《さびき》りまして、圧《お》しますと開《あ》きました。くされて落ちたのでございます。塀の外に、散歩らしいのが一人立つて居たのでございます。其の男が、烏の嘴《くちばし》から落しました奥様の其の指環を、掌《てのひら》に載せまして、凝《じっ》と見て居ましたのでございます。
紳士 餓鬼《がっき》め、其奴《そいつ》か。
侍女 えゝ。
紳士 相手《あいて》は其奴《そいつ》ぢやな。
侍女 あの、私《わたくし》がわけを言つて、其の指環を返しますやうに申しますと、串戯《じょうだん》
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