きました大きな鳥が、お二階を覗《のぞ》いて居《お》りますやうに見えたのでございます。其の日は、御前様のお留守、奥様が欄干越《らんかんごし》に、其の景色をお視《なが》めなさいまして、――あゝ、綺麗《きれい》な、此の白い雲と、蒼空《あおぞら》の中に漲《みなぎ》つた大鳥《おおとり》を御覧――お傍に居《お》りました私《わたくし》に然《そ》うおつしやいまして――此の鳥は、頭《かしら》は私《わたし》の簪《かんざし》に、尾を私《わたし》の帯に成るために来たんだよ。角《つの》の九《ここの》つある、竜が、頭《かしら》を兜《かぶと》に、尾を草摺《くさずり》に敷いて、敵に向ふ大将軍を飾つたやうに。……けれども、虹には目がないから、私《わたし》の姿が見つからないので、頭《かしら》を水に浸して、うなだれ悄《しお》れて居る。どれ、目を遣《や》らう――と仰有《おっしゃ》いますと、右の中指に嵌《は》めておいで遊ばした、指環の紅《あか》い玉《たま》でございます。開《ひら》いては虹に見えぬし、伏せては奥様の目に見えません。ですから、其の指環をお抜きなさいまして。
紳士 うむ、指環を抜いてだな。うむ、指環を抜いて。
侍女
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