聞えた。とに角《かく》、汝《きさま》の声は聞えた。――こりや、俺の声が分るか。
初の烏 えゝ。
紳士 俺の声が分るかと云ふんぢや。こりや、面《つら》を上げろ。――何《ど》うだ。
初の烏 御前様《ごぜんさま》、あれ……
紳士 (杖《ステッキ》を以つて、其の裾《すそ》を圧《おさ》ふ)ばさ/\騒ぐな。槍《やり》で脇腹を突《つ》かれる外《ほか》に、樹の上へ得上《えあが》る身体《からだ》でもないに、羽ばたきをするな、女郎《めろう》、手を支《つ》いて、静《じっ》として口をきけ。
初の烏 真《まこと》に申訳《もうしわけ》のございません、飛んだ失礼をいたしました。……先達《せんだ》つて、奥様がお好みのお催しで、お邸《やしき》に園遊会の仮装がございました時、私《わたくし》がいたしました、あの、此のこしらへが、余りよく似合つたと、皆様が然《そ》うおつしやいましたものでございますから、つい、心得違《こころえちが》ひな事をはじめました。あの――後《あと》で、御前様が御旅行を遊ばしましたお留守中は、お邸にも御用が少《すくの》うございますものですから、自分の買《かい》もの、用達しだの、何のと申して、奥様にお暇《ひ
前へ 次へ
全36ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング