ま》を頂いては、こんな処《ところ》へ出て参りまして、偶《たま》に通りますものを驚《おど》かしますのが面白くて成りませんので、つい、あの、癖になりまして、今晩も……旦那様《だんなさま》に申訳のございません失礼をいたしました。何《ど》うぞ、御免遊ばして下さいまし。
紳士 言ふ事は其だけか。
初の烏 はい?(聞返《ききかえ》す。)
紳士 俺に云ふ事は、それだけか、女郎《めろう》。
初の烏 あの、(口籠《くちごも》る)今夜は何《ど》ういたしました事でございますか、私《わたくし》の形《なり》……あの、影法師が、此の、野中《のなか》の宵闇《よいやみ》に判然《はっきり》と見えますのでございます。其さへ気味が悪うございますのに、気をつけて見ますと、二つも三つも、私《わたくし》と一所《いっしょ》に動きますのでございますもの。
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三方に分れて彳《たたず》む、三羽の烏、また打頷《うちうなず》く。
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もう可恐《おそろし》く成りまして、夢中で駈出《かけだ》しましたものですから、御前様《ごぜんさま》に、つい――あの、そして……御前様は、何時《いつ》御旅行さきから。
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