お》つて、いつかの、あの時、夕日の色に輝いて、丁《ちょう》ど東の空に立つた虹《にじ》の、其の虹の目のやうだと云つて、薄雲《うすぐも》に翳《かざ》して御覧なすつた、奥様の白い手の細い指には重さうな、指環の球《たま》に似てること。
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三|羽《ば》の烏、打傾《うちかたむ》いて聞きつゝあり。
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あゝ、玉《たま》が溶けたと思ふ酒を飲んだら、どんな味がするだらうねえ。(烏の頭《かしら》を頂きたる、咽喉《のど》の黒き布《ぬの》をあけて、少《わか》き女の面《おもて》を顕《あらわ》し、酒を飲まんとして猶予《ためら》ふ)あれ、こゝは私には口だけれど、烏にすると丁《ちょう》ど咽喉だ。可厭《いや》だよ。咽喉だと血が流れるやうでねえ。こんな事をして居るんだから、気に成る。よさう。まあ、独言《ひとりごと》を云つて、誰かと話をして居るやうだよ……
(四辺《あたり》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》す)然《そ》う/\、思つた同士、人前で内証《ないしょう》で心を通《かよ》はす時は、一《ひと》ツに向つた卓子《テエブル》が、人知れず、脚《あし》を上げたり下げた
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