三 凧は切れ了《ちゃ》つた。
小児一 暗く成つた。――丁《ちょう》ど可《い》い。
小児二 又、……あの事をしよう。
其の他 遣《や》らうよ、遣らうよ。――(一同、手はつながず、少しづゝ間《あいだ》をおき、くるりと輪に成りて唄《うた》ふ。)
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青山《あおやま》、葉山《はやま》、羽黒《はぐろ》の権現《ごんげん》さん
あとさき言はずに、中はくぼんだ、おかまの神《かみ》さん
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唄ひつゝ、廻りつゝ、繰返す。
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画工 (茫然《ぼうぜん》として黙想したるが、吐息《といき》して立つて此《これ》を視《なが》む。)おい、おい、其《それ》は何の唄だ。
小児一 あゝ、何の唄だか知らないけれどね、恁《こ》うやつて唄つて居ると、誰か一人|踊出《おどりだ》すんだよ。
画工 踊る? 誰が踊る。
小児二 誰が踊るつて、此《こ》のね、環《わ》の中へ入つて踞《しゃが》んでるものが踊るんだつて。
画工 誰も、入つては居《お》らんぢやないか。
小児三 でもね、気味が悪いんだもの。
画工 気味が悪いと?
小児四 あゝ、あの、其がね、踊らうと思つて踊るんぢやないんだよ。ひとりでにね、踊るの。踊るまいと思つても。だもの、気味が悪いんだ。
画工 遣《や》つて見よう、俺を入れろ。
一同 やあ、兄さん、入るかい。
画工 俺が入る、待て、(画《え》を取つて大樹《たいじゅ》の幹によせかく)さあ、可《い》いか。
小児三 目を塞《ふさ》いで居るんだぜ。
画工 可《よし》、此の世間《よのなか》を、酔《よ》つて踊りや本望《ほんもう》だ。
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青山、葉山、羽黒の権現さん
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小児等《こどもら》唄ひながら画工の身の周囲《まわり》を廻《めぐ》る。環《わ》の脈を打つて伸び且《か》つ縮むに連れて、画工、殆《ほと》んど、無意識なるが如く、片手又片足を異様に動かす。唄ふ声、愈々《いよいよ》冴《さ》えて、次第に暗く成る。
時に、樹《き》の蔭より、顔黒く、嘴《くちばし》黒く、烏《からす》の頭《かしら》して真黒なるマント様《よう》の衣《きぬ》を裾《すそ》まで被《かぶ》りたる異体のもの一個|顕《あらわ》れ出《い》で、小児《こども》と小児《こども》の間《あいだ》に交《まじ》りて斉《ひと》しく廻《まわ》る
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