。
地に踞《うずくま》りたる画工、此の時、中腰に身を起して、半身を左右に振つて踊る真似す。
続いて、初《はじめ》の黒きものと同じ姿したる三個、人の形の烏《からす》。樹蔭《こかげ》より顕《あらわ》れ、同じく小児等《こどもら》の間《あいだ》に交《まじ》つて、画工の周囲を繞《めぐ》る。
小児等《こどもら》は絶えず唄ふ。いづれも其の怪《あやし》き物の姿を見ざる趣《おもむき》なり。あとの三|羽《ば》の烏|出《い》でて輪に加はる頃より、画工全く立上《たちあが》り、我を忘れたる状《さま》して踊り出《いだ》す。初手《しょて》の烏もともに、就中《なかんずく》、後《あと》なる三羽の烏は、足も地に着かざるまで跳梁《ちょうりょう》す。
彼等の踊狂《おどりくる》ふ時、小児等《こどもら》は唄を留《とど》む。
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一同 (手に手に石を二《ふた》ツ取り、カチ/\と打鳴《うちな》らして)魔が来た、でん/\。影がさいた、もんもん。(四五|度《たび》口々に寂《さみ》しく囃《はや》す)真個《ほんと》に来た。そりや来た。
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小児《こども》のうちに一人《いちにん》、誰《たれ》とも知らず恁《か》く叫ぶとともに、ばら/\と、左右に分れて逃げ入る。
木《こ》の葉《は》落つ。
木の葉落つる中に、一人《いちにん》の画工と四個の黒き姿と頻《しきり》に踊る。画工は靴を穿《は》いたり。後《あと》の三羽の烏皆|爪尖《つまさき》まで黒し。初《はじめ》の烏ひとり、裾《すそ》をこぼるゝ褄《つま》紅《くれない》に、足白し。
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画工 (疲果《つかれは》てたる状《さま》、※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》と仰様《のけざま》に倒る)水だ、水をくれい。
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いづれも踊り留《や》む。後の烏三羽、身を開《ひら》いて一方に翼を交《か》はしたる如く、腕を組合《くみあわ》せつゝ立ちて視《なが》む。
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初の烏 (うら若き女の声にて)寝たよ。まあ……だらしのない事。人間、恁《こ》うは成りたくないものだわね。――其のうちに目が覚めたら行《ゆ》くだらう――別にお座敷の邪魔《じゃま》にも成るまいか
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