て、下司《げす》な奴、同じ事を不思議な花が薫ると言え。
三の烏 おお、蘭奢待《らんじゃたい》、蘭奢待。
一の烏 鈴ヶ森でも、この薫《かおり》は、百年目に二三度だったな。
二の烏 化鳥《ばけどり》が、古い事を云う。
三の烏 なぞと少《わか》い気でおると見える、はははは。
一の烏 いや、こうして暗やみで笑った処は、我ながら無気味だな。
三の烏 人が聞いたら何と言おう。
二の烏 烏鳴《からすなき》だ、と吐《ぬか》すやつよ。
一の烏 何も知らずか。
三の烏 不便《ふびん》な奴等。
二の烏 (手を取合うて)おお、見える、見える。それ侍女《こしもと》の気で迎えてやれ。(みずから天幕《テント》の中より、燭《とも》したる蝋燭《ろうそく》を取出だし、野中に黒く立ちて、高く手に翳《かざ》す。一の烏、三の烏は、二の烏の裾《すそ》に踞《しゃが》む。)
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薄《すすき》の彼方《あなた》、舞台深く、天幕の奥斜めに、男女《なんにょ》の姿|立顕《たちあらわ》る。一《いつ》は少《わかき》紳士、一は貴夫人、容姿美しく輝くばかり。
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