き、折り返して1字下げ]
二の烏 恋も風、無常も風、情《なさけ》も露、生命《いのち》も露、別るるも薄《すすき》、招くも薄、泣くも虫、歌うも虫、跡は野原だ、勝手になれ。(怪しき声にて呪《じゅ》す。一と三の烏、同時に跪《ひざまず》いて天を拝す。風一陣、灯《ともしび》消ゆ。舞台一時暗黒。)
[#ここで字下げ終わり]
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はじめ、月なし、この時薄月出づ。舞台|明《あかる》くなりて、貴夫人も少《わかき》紳士も、三羽の烏も皆見えず。天幕あるのみ。
画工、猛然として覚《さ》む。
魘《おそ》われたるごとく四辺《あたり》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みま》わし、慌《あわただ》しく画《え》の包をひらく、衣兜《かくし》のマッチを探り、枯草に火を点ず。
野火《やか》、炎々。絹地に三羽の烏あらわる。
凝視。
彼処《かしこ》に敵あるがごとく、腕を挙げて睥睨《へいげい》す。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
画工 俺の画を見ろ。――待て、しかし、絵か、それとも実際の奴等か。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]――幕――
[#地から
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