も堪《たま》らぬわ。(ばたばたと羽を煽《あお》つ。)
二の烏 急ぐな、どっち道俺たちのものだ。餌食がその柔かな白々とした手足を解いて、木の根の塗膳《ぬりぜん》、錦手《にしきで》の木《こ》の葉の小皿盛となるまでは、精々、咲いた花の首尾を守護して、夢中に躍跳ねるまで、楽《たのし》ませておかねばならん。網で捕《と》ったと、釣ったとでは、鯛《たい》の味が違うと言わぬか。あれ等を苦《くるし》ませてはならぬ、悲《かなし》ませてはならぬ、海の水を酒にして泳がせろ。
一の烏 むむ、そこで、椅子《いす》やら、卓子《テェブル》やら、天幕《テント》の上げさげまで手伝うかい。
三の烏 あれほどのものを、(天幕を指す)持運びから、始末まで、俺たちが、この黒い翼で人間の目から蔽《おお》うて手伝うとは悟り得ず、薄《すすき》の中に隠したつもりの、彼奴等《あいつら》の甘さが堪《たま》らん。が、俺たちの為《な》す処は、退いて見ると、如法《にょほう》これ下女下男の所為《しょい》だ。天《あめ》が下に何と烏ともあろうものが、大分権式を落すわけだな。
二の烏 獅子《しし》、虎《とら》、豹《ひょう》、地を走る獣。空を飛ぶ仲間では、
前へ
次へ
全33ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング