って、虫の数ほど花片《はなびら》も露もこぼさぬ俺たちだ。このたびの不思議なその大輪の虹の台《うてな》、紅玉の蕊《しべ》に咲いた花にも、俺たちが、何と、手を着けるか。雛芥子《ひなげし》が散って実になるまで、風が誘うを視《なが》めているのだ。色には、恋には、情《なさけ》には、その咲く花の二人を除《の》けて、他の人間はたいがい風だ。中にも、ぬしというものはな、主人《あるじ》というものはな、淵《ふち》に棲《す》むぬし、峰にすむ主人《あるじ》と同じで、これが暴風雨《あらし》よ、旋風《つむじかぜ》だ。一溜《ひとたま》りもなく吹散らす。ああ、無慙《むざん》な。
一の烏 と云ふ嘴《くちばし》を、こつこつ鳴らいて、内々その吹き散るのを待つのは誰だ。
二の烏 ははははは、俺達だ、ははははは。まず口だけは体《てい》の可《い》い事を言うて、その実はお互に餌食《えじき》を待つのだ。また、この花は、紅玉の蕊《しべ》から虹に咲いたものだが、散る時は、肉になり、血になり、五色《ごしき》の腸《はらわた》となる。やがて見ろ、脂の乗った鮟鱇《あんこう》のひも、という珍味を、つるりだ。
三の烏 いつの事だ、ああ、聞いただけで
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