で包んで、露をかためた硝子《ビイドロ》の器《うつわ》の中へ密《そっ》と蔵《しま》ってもおこうものを。人間の黒い手は、これを見るが最後|掴《つか》み散らす。当人は、黄色い手袋、白い腕飾と思うそうだ。お互に見れば真黒《まっくろ》よ。人間が見て、俺たちを黒いと云うと同一《おなじ》かい、別して今来た親仁《おやじ》などは、鉄棒同然、腕に、火の舌を搦《から》めて吹いて、右の不思議な花を微塵《みじん》にしょうと苛《あせ》っておるわ。野暮《やぼ》めがな。はて、見ていれば綺麗なものを、仇花《あだばな》なりとも美しく咲かしておけば可《い》い事よ。
三の烏 なぞとな、お二《ふた》めが、体《てい》の可《い》い事を吐《ぬか》す癖に、朝烏の、朝桜、朝露の、朝風で、朝飯を急ぐ和郎《わろ》だ。何だ、仇花なりとも、美しく咲かしておけば可い事だ。からからからと笑わせるな。お互にここに何している。その虹の散るのを待って、やがて食おう、突こう、嘗《な》みょう、しゃぶろうと、毎夜、毎夜、この間、……咽喉《のど》、嘴《くちばし》を、カチカチと噛鳴《かみな》らいておるのでないかい。
二の烏 さればこそ待っている。桜の枝を踏めばとい
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