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侍女、烏のごとくその黒き袖を動かす。おののき震うと同じ状《さま》なり。紳士、あとに続いて入《い》る。
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三羽の烏 (声を揃えて叫ぶ)おいらのせいじゃないぞ。
一の烏 (笑う)ははははは、そこで何と言おう。
二の烏 しょう事はあるまい。やっぱり、あとは、烏のせいだと言わねばなるまい。
三の烏 すると、人間のした事を、俺たちが引被《ひっかぶ》るのだな。
二の烏 かぶろうとも、背負《しょ》おうとも。かぶった処で、背負った処で、人間のした事は、人間同士が勝手に夥間《なかま》うちで帳面づらを合せて行《ゆ》く、勘定の遣《や》り取りする。俺たちが構う事は少しもない。
三の烏 成程な、罪も報《むくい》も人間同士が背負いっこ、被《かぶ》りっこをするわけだ。一体、このたびの事の発源《おこり》は、そこな、お一《いち》どのが悪戯《いたずら》からはじまった次第だが、さて、こうなれば高い処で見物で事が済む。嘴《くちばし》を引傾《ひっかた》げて、ことんことんと案じてみれば、われらは、これ、余り性《たち》の善《い》い夥間でないな
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